石川県立中央病院

石川県立中央病院さん 【お名前】 長 真美恵さん
【病院名】 石川県立中央病院
【役職名】 看護部長
【これまでのご経験】
学校卒業→石川県立中央病院→看護学校の先生→行政での勤務→石川県立中央病院で勤務。
臨床では、小児科、整形外科、手術室、NICU、ICUなどご経験。看護部長歴3年目。※取材日…2019年10月(看護部長さんは取材当時の方です。)  

看護部長のお仕事について

病院という組織の中で、病院の使命(ミッション)を果たすために、看護部としての役割や機能をもって、できることは何かを常に考えています。そして、考えが実現するように看護職員に発信をしていくことが大切です。
なかでも「人」に関することが重要と考えています。看護の質を上げていくため、スタッフの働きやすい環境を整えていくためには、看護職員数を増やすことが必要です。そこで、事務方へ人員要求をしていくことを行っています。また、人材育成も重要な仕事です。教育計画、キャリアプランをふまえた部署異動や育休明けの部署配置などの人事を含め、人に関わることがメインの仕事です。

そして、院内外を問わず、看護部のトップとして部署を超えた調整や交渉も行っています。院内では医師や薬剤部、栄養部、管理部門等と調整をします。
病床数が多いので、個々の患者さんのところに行ってお話を伺うということはなかなかできないのが現状ですが、病棟に行った時にナースセンターにいらっしゃる患者さんにお声をかけたり、お話を伺うことはあります。

つい先日、「皆さまの声」という投書で、車椅子についてのご意見をいただきました。内容は、車椅子の足置きの高さが高く、膝裏が浮き、危ないので何とかできないかというものでした。その投書があった病棟は特定できていたので、病棟の車椅子の高さが同じくらいなのか、思い当たる患者さんがいるかどうかを、副部長・師長と一緒に実際に現場を確認しました。
そして、実際に車椅子に座ってみて、「患者さんはこう言っているけど、何かできることはないかな?」「シートにクッションを敷いて座面を上げると、浮いた感じが緩和するかな」というようにスタッフとやりとりしました。また、ちょうどリハビリのスタッフがいたので聞いてみたら、実は膝裏を圧迫しないように、あえて少し浮かせる構造にしてあるのだそうです。看護師はそのことまで知らなかったので、一つ発見がありました。そういった情報をもらった上で、お返事として最終的にはその投書に私の名前で回答し、掲示する予定です。
患者さんと直接のコミュニケーションはあまりないですが、患者さんの困っていることや考えておられること、現場に対するご意見を頂くことがあるので、それに対して師長に伝えたり、現場に見に行ったりと、やりとりをすることも大事な仕事かなと思います。

仕事のやりがいについて

次世代の人たちが育つことが、これからの病院を支えていくための看護部の大事なミッションだと考えています。私が現場のナースと直接やり取りすることは中々なく、師長が現場のナースと日頃やりとりしますが、私と師長がやり取りすることで、師長が困りごとの答えを見つけたり、現場が変わっていったり、頑張っている姿を見たりすると、よかったなとすごく思いますし、人が育っていく姿を見ることにやりがいを感じています。

私は自分が看護部長になるとは思ってもいませんでしたし、これはよく言うのですが、なりたいという希望だけではなれないじゃないですか。周囲の人たちに必要とされること、何よりもそういうポストがないとその役職につくことはできません。
例えば、看護師長になりたいと思った時に、認め、推薦してくれる人がいて、周りが納得してこそなれるものだと思いますが、なかなかそういうタイミングは合わないことがあります。逆に言うと、自分はなるつもりが全然なかったのにその役職になった人もいます。私は自分自身、当然後者の方だと思っています。そして、「こんなことも知らなかった」「こんなことに悩まなければいけないんだ」と、そのポジションになってみないと分からないことが沢山あり、その経験の中で新しい楽しさも見つけてこられました。新しいポジションに就いた時に、誰かが手取り足取り教えてくれるわけではないので、走ってみたり、止まってみたり、バックしてみたりと、いろいろな方法を試します。日々大変と思いながらも、学んで吸収していくことにやりがいを感じています。

看護部スタッフ700名近くの中で、看護部長は1人しかいません。看護部長になって、私がその職位にいるという意味合いはどういうことなのかと考えた時に、積み木を一つずつ積み上げていくように、土台がしっかりしていないと上手くいかないということが分かりました。つまり、私1人で全てのことを出来るということはなくて、不足している部分やプラスアルファの部分を副部長や師長、スタッフが担ってくれているから、700人の組織が成立すると思っています。

しかし、私でないと最終判断できないことは必ずあります。そういう時にいつも迷い、副部長にも意見を聞きますが、最後に決断するのは私なので、とても責任の重い仕事です。私が決断していいのかなと思うこともいっぱいあるのですが、それがひとりひとりの看護師や生活の一部になることは間違いないので、そういうことを決めることに醍醐味があるんだろうなと考えます。
色々な思い、状況、事情がある中で、スタッフを部署異動させるというのは生半可な気持ちではできません。そして、行ったことが100%いい方向に向かうかなんて誰も教えてくれないし、誰も分からないのですが、それを遂行しなければいけない立場に私があります。決断した後も「よかったのかな?」と思うこともあれば、「よかった!」と思うこともあります。「よかった!」と思うことに出会った時は、自分も決断した意味があるなと思います。でもそんなことばかりじゃないのですよ(笑)。ぐちゃぐちゃといつまでもあれでよかったのかな、と考えることもあって。でもやっぱり、人と関わる仕事を選んだ良さがそこにはあると思いますし、これは苦しいけどトップじゃないと感じられない思いなのだろうな、とすごく思います。スタッフとやりとりする中で、悩んだり答えが出たり、失敗したり成功したりと、いろいろな苦労がありましたが、やっぱり人が好きだから乗り越えられたと思います。

看護師のキャリアプランについて

核家族のため自分たちで育児をしなければならないとなると、24時間患者さんに向き合って仕事をしていくことが大変なことは重々理解しているので、色々な制度を使って辞めずに継続して欲しいと思います。
しかし部長になった時、どうやって育児制度を運用していこうかという話が出てきて、最初の頃はなかなか先々を見通せなかったです。みんなが育児制度を使い始めた時に、それによって現場は夕方に人がいなくなったり、夜勤ができないということがありました。そんな中仕事を続けてもらうのってすごく大変ですし、キャリアプランも崩れてしまいます。

私は看護師になって「看護師になってよかったな」という経験をすることで、自分の中で「看護師を続けたいな」という気持ちになりました。看護師は経験を積むことで次にどうしたいかを考えると思うのですが、産休や育休を取った後のことはなかなか想像できないと思います。保育園の受け入れ状況もあるので、自分が戻りたいタイミングで、病院に戻ってこられないという問題もありますし、家族のサポートによるところもあるので、自立して夜勤もしつつ看護師を続けることは難しいことだと思います。
キャリアプランをしっかり持っている看護師は、結婚し育児をしても、病院に戻ることを頭の片隅に入れていますし、戻ってきたらこんな働き方をしたい、としっかりと言います。復帰してみないと分からないという看護師は、戻ってきてからもなかなかステップアップ出来ずにいるということがあります。そこで私たち管理者は、本人たちが少しでも働きやすい環境に戻れるようにしようと、昨年からパパママナース応援セミナーを開催し、育休に入っている人に集まってもらい、話をしています。その他、メールで今後どのように復帰していくか、やりとりをしています。そして、途中になったキャリアをサポートしていく為、ラダー制にして一つ一つステップを踏み、キャリアを積んでいくことで、今後が明確になってくれればいいのかなと思います。
最終的には、認定看護師や管理者、ジェネラリストとしてベテラン看護師になっていく人もいると思いますが、看護師がキャリアを選んでいくためのお手伝いが出来たらなと思っています。

学生へのアドバイス

自分がやりたいことと希望する病院の目指しているところがフィットしているかどうかが大切かなと思います。フィットしていないと、自分も病院側も苦しいと思います。病床数が少ない病院であれば、アットホームで部長や師長などの管理者と近い立場で、看護師はやりとりできると思いますが、当院でそれを実現しようと思うと難しいです。当院だと、私と副部長が自分たちの思いを一緒にして、その思いを師長たちに伝え、師長たちが病棟の中で実現していくという規模です。看護もいろいろで、最先端の技術を身につけて患者さんを助けたいと思うのであれば、当院のような病院を選ばなければいけないと思います。それが学生の間でどこまで分かるかだと思いますし、入ってからにも関わるので大事なことかなと思います。

看護師になると、患者さんを通していろいろなことを考えたり、経験したり、感じたりと、学ぶことがいっぱいあります。それは人と関わる仕事に就いたからこそ、巡り合える大事な部分だと思っています。看護師になりたての時の技術はどれだけ未熟でもいいのです。患者さんと真摯に向き合う中で、自分が得るものがあるとしたら、それは自信や継続に繋がっていくと思います。ただ、そういう体験をちゃんと出来るかどうかが、この仕事を続けていく上での大事な部分だと思います。
お給料が高いから、公務員で安定しているから、という選び方も、当然あっていいと思います。しかし、患者さんと接していくことはどんな看護師にとっても同じなので、真摯に向き合うことができないと、患者さんは心を開いてくださらないし、自分がこの方と会えてよかったなと思わないんじゃないかなと思います。その原点を大切にしていただけたら、きっと頑張れると思います。

看護部長になる前について

人と関わる仕事に就きたい、というのが看護師を目指した理由の一つです。そして、看護師になって私にできることが何かあったらいいな、というくらいの気持ちで、実はそんなに強い動機はありませんでした。だから、学生時代の実習の時に先生から質問がきそうと思ったら逃げていました(笑)。そんな劣等生でした。そして、学校卒業後に当院に入職し、7年臨床で勤務をした後は人事異動で看護学校や行政機関でも勤務しました。本当にケセラセラ(なるようになるさ)ですよ。

看護学校では7年勤務しました。ナースは生涯勉強しないといけませんし、後輩も育成しないといけません。そして、病院に学生さんがきたら仲間として受け入れていかなければいけないという気持ちは元からあったので、教育に対してあまり抵抗はなかったです。また、そこでやれることをやろうと思うタイプなので、新しいところへ行くことにも抵抗がないです。そして、たまたま声がかかった時に、家庭がそれを許される状況であったから異動したわけで、全部が揃っていないとなかなか次のステップには行けないと思います。仕事にたくさんの時間をかけているので、家族にはいっぱい迷惑をかけていますが、最終的に一番の理解者が家族であるからこそ、今があるのかなと思います。

後から思えばですが、学校で教えるということはしたことがないのに、90分話をするなんて恐ろしいですね(笑)。しかも、経験していた病棟に関する授業を、何十時間担当しなさいと言われるのです。その他にも、ここではない違う病院へ実習担当教員として行くわけです。行ったことがない病院に行って、ご挨拶して、学生を前に先生という顔をしていないといけないのです(笑)。
最初の頃は分からない、知らないと言うことが、だめなのだと思っていました。学生というのは、教員を頼りにしている訳ですし、当然教員は何でも知っていると思うと思います。患者さんもそうですよね。患者さんが看護師一年目の人に質問したとしても、知識と実際に経験していないことの大きいギャップがあり、答えられないのです。患者さんは自分のことを看護師として見ているので、最初の頃は何とか答えようと思ってしまうのです。しかし、「知識のないことは言うことが出来ない」ということを自分で分かっていないと、「ごめんなさい」と言えないし、「私調べてきます」や「先輩に聞いてきます」と言えないじゃないですか。

それは学校で教員として勤務していても一緒なんです。最初は、自分は教えることが上手いのかどうかも分からないし、90分何を話したらいいのか分からないのに、先生らしくいなきゃと思うわけです。それから時を経る中で、そういうのが教員じゃないなと少しずつ感じるようになって、学生が何を考えているか、何に困っているかに耳を傾けるようになりましたし、学生が答えを出せるようにするにはどうしたらいいか、考えられるようになっていきました。この学校での経験は今の管理者としての立場にも影響していると思います。
私の弱みは臨床経験が少ないことですが、強みはここにいるスタッフが知らない世界を経験させてもらったということです。自分は100%の人間ではないので、当然弱いところは弱いのです。弱い部分は周りにカバーしてもらったり、力を貸してもらわなければ無理です。しかし、自分がしてきたことで、他の人が経験していないことがあれば、その経験値を使って出来ることがあればサポートしたいなというのが私のスタンスです。

好きな言葉・座右の銘

ケセラセラではないですが、「なるようにしかならない」というようなことは、人生のスタンスの中にありました。その他、「置かれた場所で咲きなさい」という言葉は一番自分にフィットしていると思います。
私は社会人になっていろいろな経験をさせてもらいました。看護学校、そして行政での勤務から病院に戻った時は、今まで経験したことのないICUに戻りました。信じられないですよね(笑)。その時のスタッフに言われたのですが、二歩ほど下がって仕事をしていたようです。それは無意識だったのですが、自分がどう動いていいのかわからないという気持ちがそうさせていたのだと思います。それが現場に戻ってきた最初の頃でしたが、それぞれの部署での良さを感じました。
集中治療室では、ケアの際は複数の看護師で行います。また、部屋もオープンなので、気持ち的なサポートもありましたし、周りの看護師の素晴らしい看護技術も見られました。学ぶ機会を得られ、恵まれていたなと思います。

休日について

お休みはひどくぐうたらな生活をしています(笑)。トイレやお風呂、台所にいる時に仕事のことを考えたり、パッと思いついたりすることがよくあります。水回りなのでなかなかメモをとれないのですが。それ以外の時は「トドや」と言われるくらい(笑)、本当にぼーっとしています。
勤務時間は面談や打ち合わせ等が本当に多いので、集中して仕事をしようと思うと時間外になってしまい、それが課題になっていますが、休みとの線引きはしています。それがなんとかやってこれた理由なのかなと思います。
趣味というかお花が好きで、苗を買うことがあります。本当は(笑)、ちゃんと植え替えをしてあげないといけないのですが、買ってきたポリの入れ物のまま、息絶え絶えになることもあります。なんだか悲しいなと思いながら…。それで、涼しくなったらやろう、来年になったらやろうというように思うのです。園芸の番組は好きですし、花を見に行くことも好きです。夢は、庭に四季色とりどりのお花が咲いて、家の中に飾るような生活です。いずれ(笑)。夢はちゃんと持っておかないと。

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