呼吸困難 vol.2 呼吸困難とは

呼吸困難と呼吸不全の違い

呼吸困難と呼吸不全の違い呼吸困難感は、多くの場合、呼吸不全を伴います。しかし、呼吸困難感イコール呼吸不全ではありません。検査値や画像では、明らかな異常を認めないのに呼吸困難感を強く訴える患者さんがいます。

また、逆に「はあはあ」と呼吸が荒く酸素飽和度も低いのに呼吸困難感の自覚がない患者さんもいます。

呼吸困難感を緩和するときには、この「呼吸困難感」と「呼吸不全」の違いを理解すること大切です。

●呼吸困難
「呼吸時の不快な感覚」、主観的な感覚、本人が「息苦しい」と感じること

●呼吸不全
低酸素血症(PaO2≦60Torr または SpO2 90%、客観的な病態)


呼吸困難の頻度は?

がん患者の19~64%と言われています。(定義や病期により報告はさまざま)

疼痛、食思不振、倦怠感などに次いで頻度は高く、原発性・転移性肺腫瘍がなくとも生じます。
最期の数日では、3/4以上の患者に出現します。

呼吸困難の原因と治療

呼吸困難の治療には、まず、原因病態の評価が重要です。原因病態が可逆的で、治療可能であれば、それを治療することが最優先となります。

 

原因 治療
(1)呼吸器・循環器病変
原発性肺がん/肺内転移の増大 -
気道閉塞/狭窄 放射線治療、ステント
がん性リンパ管症 ステロイド
胸水・心嚢水 ドレナージ
気胸 ドレナージ
肺炎 抗生剤
心不全 輸液減量・利尿剤・強心剤
(2)治療関連
手術:片肺全摘出など -
放射線療法:放射線性肺臓炎 コルチコステロイド
化学療法:肺毒性、骨髄抑制による感染・貧血 -
(3)全身状態の悪化
原疾患の進行による悪液質・筋力低下 -
腹部膨満 腹水ドレナージ、排便調整
貧血 輸血
不安 抗不安薬

 

呼吸困難感の評価

呼吸困難感は主観的な訴えであり、その人自身しかわからない症状です。だからこそ、患者自身の言葉を拾いあげ、適切なスケールを使用し、患者が感じているつらい症状を医療者が共有していくことが重要です。

さまざまな要因がかかわった、多面的で複雑な症状だからこそ、さまざまな側面から総合的にアセスメントしていくことが必要です。

(1)量

量的評価は、どれくらい息苦しいかです。息苦しさの程度・強さを評価します。

ニューメリックスコア

0~10の11段階評価

言葉による表現

  • 息苦しくない
  • 少し息苦しい
  • かなり息苦しい
  • 非常に息苦しい

VAS(ビジュアルアナログスケール)

線を引き、左端を息苦しくない0の状態、右端を最大の息苦しさとして、患者さんが感じている苦しさがどの程度なのかを記入してもらう方法です。

VAS(ビジュアルアナログスケール)

 

フェイススケール

顔の表情を書き、自分の苦しさがどの段階に当てはまるかを選んでもらう方法です。主に小児や高齢者の患者さんに対して使うことがあります。ただ、苦しさの評価だけでなく、そのときの気分や他の症状についても示してしまうことがあるため、注意も必要です。

フェイススケール

(2)質

質的評価は、どのような息苦しさかです。息苦しさの種類・特徴を評価します。

  • 呼吸不全を伴うか?
  • 不安の要素は関与していないか?
  • Cancer Dyspnea Scale(がん患者のための呼吸困難スケール)

Cancer Dyspnea Scale

Tanaka. Br J Cancer 2000
http://pod.ncc.go.jp/b_5/b_5.pdf

がん患者のための呼吸困難スケールを使用します。

(1)自己記入式
(2)簡便性
(3)多次元性
 (3-1)呼吸努力感(100m走を走った後の感じ)…モルヒネ
 (3-2)呼吸不快感(山に登った時の感じ)…酸素
 (3-3)呼吸不安感(おぼれるような 詰まった感じ)…抗不安薬

(3)については、患者さんに質問に答えてもらい、点数化し計算します。最高得点は、(3-1)20点、(3-2)12点(3-3)16点で、合計48点です。得点が高いほど、強い呼吸困難を表します。

また、以下の点についても評価の指標となります。これらは、疼痛の初期評価に準じています。

  • 患者さんの表現 (患者さんがどのような言葉・表情・態度で表現しているのかで評価)
  • 1日での変化 (日内変動はないのか、夜間にかけてつらいのか、など経時的変化をアセスメント)
  • 増強・緩和因子
  • 環境因子 (環境因子には関連がないのか、室内環境をアセスメント)
  • 心理的要因 (心理的要因には関連がないか、不安・抑うつ・恐れなど心理状況をアセスメント)

 

(3)QOLへのインパクト

生活へのインパクトを評価することです。残念ながらスケールは現在の日本にはありませんが、以下の項目を例に、何ができて何ができないのか、など日常生活がどのくらい障害されているか、患者さんの生活の場面を通して話を聞き、介助を通して評価していくことが必要です。

 

  • 日常生活全般
  • 気持ち・情緒
  • 仕事(家事を含む)
  • 対人関係
  • 歩くこと
  • 生活を楽しむこと

 

適切な治療の第一歩である症状評価を適切に行っていくことは、看護師の非常に重要な役割なのです。

 

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