【お名前】 川江 辰徳さん
【病院名】 恵寿総合病院
【特定行為区分】4区分…呼吸器(気道確保に係るもの)関連、呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連、呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連、栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 ※その他、動脈血液ガス分析関連を現在受講中
【特定行為】8行為…経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整、侵襲的陽圧換気の設定の変更、非侵襲的陽圧換気の設定の変更、人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整、人工呼吸器離脱、気管カニューレの交換、持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整、脱水症状に対する輸液による補正
※取材日…2019年7月19日
特定行為研修を受講したきっかけ
2016年10月当院に特定行為研修センターが設置されました。受講日程の特徴は、働きながら学べることです。一期生は誰が受講するのかという話になった時に、手さぐり状態であるので、まずは認定看護師に受講させたいということになりました。私は脳卒中リハビリテーション看護認定看護師を取得しており、私を含め5名の認定看護師が一期生として受講することとなりました。
どんな研修だったか・研修を受講した感想
特定行為研修は全部で21区分、38行為があります。まず私たちが受講する区分そして行為について理解することから始めました。共通科目について、315時間eラーニングを自宅または病院で受講しました。そして一つ一つの科目に対して試験を受け、合格した後、区分別科目を受講し、演習や実習は特定行為研修センターで行いました。区分別については、私は4区分8行為についてeラーニングや医師の講義を受講し、試験を受けました。共通科目で6ヶ月、区分別科目で6ヶ月、トータルで1年かけて試験に合格し、晴れて特定行為研修を修了しました。
私はHCUで3交代勤務をしながら受講していました。一期生の講義日程は、講義する医師に合わせていた部分が大半であったこと、受講生が院内の看護師であることから、講義日程は曜日指定がなく、3交代勤務の私は、休日や深夜勤務後、準夜勤前に講義を受けていたので、身体的・精神的な負担は大きかったです。二年目以降は一期生の状況や、院外からの受講生の受入れを検討し、水曜日に講義が集中するように日程調整されました。二年目からは、看護師特定行為研修を修了した一期生がカリキュラムの一部の講師を務めています。私は特定行為区分の「栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連」「長期呼吸療法に係わるもの関連」の講義を担当しています。
それまでICU・HCUで10年ほど働いてきたので、それなりの知識・技術があると思っていたのですが、特定行為研修を受講し、医師が学ぶ内容を看護師が学んでいく中で、医師の考え方や医師が診療でどれだけプレッシャーのかかる行為をしていたのかということを感じ取ることができ、研修を受講してよかったと思っています。例えば点滴について、看護師は医師から処方されたものを投与するわけですが、点滴一つ投与することがどれだけ注意を払わなければいけない行為で、どれだけ総合的なアセスメントしつつ知識をもって実践しなければいけないのかを学びました。
業務の中でどういう特定行為を行ったか
医師が「この患者さんは状態が安定している」と判断した場合に、手順書に従って看護師が特定行為を行います。HCUで勤務しているのですが、体位変換によって人工呼吸器の挿管チューブの位置がずれてしまった場合に、フィジカルアセスメントを行い、また胸部レントゲン等で判断し、位置を調整します。その他、人工呼吸器の設定変更や薬剤の投与量の調整にも介入しています。気管カニューレ交換では、他病棟に出向き、気管切開をしている患者さんの定期カニューレ交換を医師の代わりに私たちが行います。
例えば、人工呼吸器を装着されている状況下での一般的な指示に「酸素飽和度が96%以上あればFiO2を5%ずつ減量可」という指示があるならば、普通の看護師は、その指示通りに行わなければいけません。しかし、特定行為の対象となる患者であり、看護師が診療の補助を行う患者の病状の範囲であれば、手順書に添って特定看護師(恵寿総合病院では研修を修了した看護師を特定看護師と呼びます)が介入を開始し、自分たちでアセスメントを行い、患者さんの状態に応じた設定を調整していきます。そして介入後は速やかに看護記録に記載し、医師に報告を行っています。
去年は当院全体で80例ほど特定行為を行い、今後さらに件数は増えていくと思います。
当院の特定行為に関して、医師は非常に協力的だと思います。患者の病状が手順書の範囲内であるかを判断する必要がありますが、対象となり得る場合には、医師に「特定行為の介入をしてもいいですか?」とアプローチを行い、それに対して医師たちが任せてくれるケースが多くあります。しかし、全国的に見ても、まだまだ、特定看護師が行う特定行為の安全性や信頼性には賛否があり、看護師に任せるのは危ないのではないかという医師の方々もいらっしゃいます。そのような意見を真摯に受け止め、私たちは知識・技術の向上に努めています。現在では特定看護師が介入し、そこで成果が出ているので、医師としても介入していいですよ、と言っていただくことが当院では多いと思います。
特定行為の成果については、例えばリアルタイムに患者さんに介入することによって、呼吸器の離脱が早くできた、というようなケースがあり、医師から「特定看護師が早期に介入してくれてよかった。次回もお願いします。」というような評価をいただきました。医師は常に病棟にいるわけではなく、また夜間や休日は不在のため、特定看護師がいることで、リアルタイムに介入することが可能となります。特定看護師がいることの良い点としては、一番は患者さんにとってメリットがあることですし、二番目は医師の負担を減らすことだと思います。
特定行為の対象である患者さん、またはその家族に、主治医と看護師から特定行為の介入について説明をおこなっていますが、患者さんやその家族から断られたケースもありました。やはり患者さんにとって医師と看護師では信頼度が大きく違いますし、今まで医師が行っていた診療行為を、看護師に行ってもらうということは患者さんや家族からしてみれば不安に感じ、医師に対応をしてほしいと感じるのではないかと思います。しかし、当院では看護師の特定行為を受け入れてくれる場合が多いです。
当初は特定行為をすることに不安や緊張がありました。日勤で介入して帰宅した後に、「あの設定で大丈夫だったかな」と思い、夜勤の看護師に連絡したり、次の日、医師に自分が介入した内容が正しかったのかを振り返る機会を設けてもらったりもしたことがありました。達成感よりも日々、反省点が多く滅入ることも多かったですが、自分が良い介入をすることは患者さんのためになりますし、介入することで考え、振り返り、次に活かそうというモチベーションが保たれるので、特定行為について消極的に思ったことはありません。医師レベルではないですが、特定行為研修での学び、認定看護師としても知識や技術、そして看護師としての経験などを複合的に活用しプライドを持って実践しています。また周りの特定看護師の仲間に助けられていることが非常に大きいと思います。
これからの課題
課題は大きく分けて2つあります。
まず1つは、まだまだ特定看護師が少ないという現状です。特定行為研修が始まった時に、厚生労働省では2025年までに約10万人を育成するという方針でしたが、現状のペースでは難しいと思います。当病院単位でいうと、現在、三期生が受講しており、一期生から数えても16人程度です。そんな中、夜中に医師がいない場合に、私たち特定看護師がいればリアルタイムに患者さんに関わっていけますが、いない場合は介入がストップしてしまいます。そこで、特定行為ができる看護師が病棟単位で各勤務にいる必要があると思います。また、ただ数を増やせばいいという問題ではなく、研修を受けたからには実践をしていかなければいけないと思うので、モチベーションを高く維持し、学習の継続やスキルアップを行っていくことが重要であると考えます。
2つ目の課題は、認知度が低いことです。当院でも、当事者である特定看護師や認定看護師、特定行為に関わっている医師たちは理解しているのですが、それに関わっていない医師や一般の看護師は、まだまだ特定行為についての理解が不十分だと思います。そこで、どの看護師がどの区分・行為の特定行為ができるのかなど、今後、院内で広報活動を行い医師や看護師の方々に広めていく必要があると考えています。
特定看護師を増やしていくこと、認知度を高めることは私たちの使命であると思います。
その他、特定行為を看護師が行うことによって、患者さんへリアルタイムに介入ができ、そして医師の負担を減らせるという効果は確かに良いのですが、看護師の業務が増えるという課題もあると思います。一つの設定を変えるという特定行為でも、情報を集めアセスメントし、考えて実践し、行為を行った後に細かな記録も残さなければいけません。例えば、人工呼吸器の設定を変えるとなった場合でも、半日近くかかることもあります。そして、挿管されている患者さんの設定変更をする時に、患者さんが薬剤も投与されているといったような複数の気を付けるべき項目があれば、ひとつひとつアセスメントして介入し、記録を行わなければなりません。一行為ごとにすごく時間がかかります。通常の看護業務を行いながら特定行為を行っているので、特に特定看護師は特定行為にのみ専念する、ということは現状難しいですが、これから特定看護師を目指す看護師さんのためにも、業務改善やシステムの構築が必須であると思います。
今後、学んだことをどのように活かしていきたいか
「どの看護師がどの特定行為を修了していて、どの病棟に在籍し、いつ勤務しており、いつ介入できるか」とった情報をまとめたシステムを作り、医師、看護師が把握できるようにする必要があると思っています。現状は、勤務表を見たり電話をしたりして看護師の状況を把握しているのですが、もっと簡便に医師が、誰に特定行為を依頼すればいいのか分かるようにし、特定看護師を活用してほしいと思います。例えば、救急で患者さんが運ばれてきて、挿管をして呼吸器をつけた時にどの看護師が介入するのか、システムをワンクリックで見られるようにしないと、リアルタイムで患者さんに関われないのかなと思います。
特定看護師をこれから増やしていくためには、看護師たちに「特定看護師になりたい」という思いにもっていかないといけないと思います。特定行為を行っている姿を見せて、自分もなりたいなと思ってもらえるように今は活動しています。現在は病棟間を横断的に活動しているのですが、人数が増えて病棟単位で特定行為が行うことができれば、よりスムーズに患者さんのケアを行うことができると考えています。