【お名前】 木下 真由美さん(訪問看護認定看護師、訪問看護ステーション管理者兼看護師長、特定行為看護師、NST専門療法士)
【病院名】 公立能登総合病院
【特定行為区分】1区分…創傷管理関連 ※その他、栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連、血糖コントロールに係る薬剤投与関連を現在受講中
【特定行為】2行為…褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去、創傷に対する陰圧閉鎖療法
※取材日…2020年2月
特定行為研修を受講したきっかけ
病院では他の看護師に相談することができますが、訪問看護は一人で看護を行わなければいけないので、ある程度の知識がないといけません。看護をする中で、「こうした方がいいのかな?でも、どうなんだろう?」ということが常にあり、自分の無力さを感じていました。そこで、もっと勉強したいなと考えていた時に、当院で特定行為研修が開講されるという話がありました。
訪問看護の患者さんは器械を付けているなど、病院に行くことすら労力を使いますし、一人で行くことも難しいです。また、訪問看護に行って、「こういう対応をしたい」と思っても、処置をする時は必ず先生の判断や指示が必要です。そこで、私たち訪問看護師がその橋渡しとして、患者さんが病院で受診しなくても、在宅でタイムリーに早く対応できれば、負担が少しでも軽減できるのではないか、と日頃から思っていました。特定行為研修は在宅看護に必要な項目が多く、私たちが頑張らなくちゃいけないという思いがありましたし、形成外科の先生からもぜひ受講してはという勧めもあり、受講させていただきました。
平成29年に当院で特定行為研修が開講され、当院全体で私を含め4名が1期生として創傷管理関連について受講しました。4名の内訳は訪問看護ステーション2名、病棟2名です。ステーションからは2名受講したので、心強かったです。
どんな研修だったか・研修を受講した感想
当時特定行為研修は、共通科目だけでも315時間かけて学ぶ必要がありました。勤務中にその勉強時間をとってもいいという許可をいただいていたのですが、その時間を確保するのがかなり難しかったです。共通科目はコツコツと自分で学んでいき、区分別科目のグループワークや演習は受講者で集まって学びました。その他、実際の回診に付いて学ぶこともありました。
1期生は訪問看護ステーションから2名受講したので、グループワークがあると両方とも実務から離れなければならず、他のスタッフに申し訳ないという気持ちでいっぱいでした。訪問看護の場合は、何曜日の何時に訪問というようにスケジュールが決まっていたり、緊急で訪問しなくてはならないことがあったりと、そういう調整が必要でしたが、皆快く研修に出してくれました。また当院で研修していたので院内で学ぶことができ、それもすごくありがたかったです。
創傷管理関連の区分は危険を伴う処置があるので、技術を求められます。だからといって創傷管理がメスで切ることばかりではなく、基本的な看護を理解することがあってのことです。
業務の中でどういう特定行為を行ったか
創傷管理の特定行為に入っているような、壊死組織の除去や陰圧閉鎖療法は技術的なものですが、こういった対応をしなければいけない利用者さんというのは、そうそういるわけではありません。訪問看護では、特定行為が介入することにならないように、利用者さんへの日頃のケアが重要になります。実際に特定行為をするというよりは、予防のためにエアマットを整えるなど、環境を整えることが中心です。ただ、中には自宅でのケアにご家族の協力が得られなかったり、訪問看護が介入していなかったりなどで、利用者さんが壊死を起こすというような事例があります。そういった時には、先生と協力しながら特定行為の対応をしました。
特定行為は新しい取り組みなので、訪問の度に褥瘡を写真に撮り、スケールにまとめて先生に報告しています。特定行為は先生の手順書に基づいて看護師が対応します。時にはその手順書の中に、これには手を出してはいけない、というような禁止事項も書いてあります。行ったことで何かあっては大変なので、試行錯誤しながら対応しています。
これからの課題
特定行為をする看護師は、先生がいないところで手順書に沿って処置をするので、お家の方や利用者さんご本人が、「本来先生がする処置を、看護師がする」ということをご理解いただくことが大切かなと思います。
また、訪問看護の管理者目線でいうと、訪問看護で処置が必要な場合は、なるべく二人で行くようにスケジュールを調整しています。例えば病院の外来であれば、先生が処置をする時に、看護師が患者さんの体を支えたりおむつを下ろしたりできますが、訪問看護は看護師が一人で行ったら全部自分で対処しないといけません。利用者さんが動くかもしれないし、何かあるかもしれません。その時にご家族の協力もどれだけ得られるかわかりません。そこで、そういう場合には二人で訪問できるように、人員配置を調整しています。
まず特定行為にご理解していただく必要がありますし、看護師が行為を行うための同意書も必要になります。そこで、処置についてたくさん勉強してきた特定行為看護師という私たちの存在をお伝えしていきたいです。
もしも危険なことがあったらと考えると、消極的になってしまうので、ステーションの管理者としては、何かあればすぐ先生がフォローしてくれるようにする、家族の同意を得られるように準備するなど、そういったバックアップする環境を整えています。もしも出血した場合に縫う物品や凝固するための電気メスを持っていきなさいと言われるように、創傷管理関連の特定行為はリスクの高いことなのです。怖くて訪問に行けないとなってしまったらもったいないので、特定行為研修での学びを活かすために、「何かあったら絶対皆が守るよ」と伝えています。
そして、特定行為の褥瘡の処置をする時に、特定行為担当の看護師のみで訪問したのでは広がらないので、他のスタッフも一緒に行くようにしています。そうしないと研修を受けていないスタッフは、「褥瘡になったら私では対処できない」と思ってしまいます。チームでその利用者さんの治療に関わりたいので、その意味も込めて複数で訪問に行っています。
課題はたくさんあります。まず特定行為をする看護師がいることを、皆さんに知ってもらう必要もあります。特定行為を行うには、労力がかかり人手も必要ですし、診療報酬はほとんど認められていません。先生に代わって特定行為を行うわけですが、処置をしても訪問看護としての報酬になります。
厚生労働省は特定行為看護師を10万人に増やしたいと言っていますが、研修を受けること自体も大変ですし、さらに研修を受けた後の看護師をどう生かすかも課題になっています。幸いにも当院は先生たちが協力的で、バックアップしてもらえる環境があります。施設によっては先生が看護師に特定行為を任せられない、といったような問題があるようです。
訪問看護師が日々のケアをするという土台にプラスして、特定行為の知識や技術があります。月に1回病院で傷を見るだけではケアできないことがあるので、褥瘡ができやすい利用者さんには定期的にお宅へ訪問する、訪問看護を活用してほしいと思います。
今後、学んだことをどのように活かしていきたいか
自分の目標としては特定行為のことを伝えるというか、皆さんも研修を受けてみては、という思いがあります。担当している看護学校の授業や何か発表会があった時に、特定行為のことを話しています。先日も医師会の発表があったのですが、その時も特定行為のことを話しました。特定行為について色んなところで言っているのですが、まだまだ知らない方が結構います。特定行為のことを伝え、理解してもらうことが私の役割なのかなと思います。また、大変なことだとは思いますが、できればステーションの皆が研修を受講して、皆が同じように力を付けていき、地域に貢献できたらいいなと考えています。そこから地域の方々に特定行為のことはもちろん、訪問看護のことも伝わると思うので、そのことを通して在宅と看護の連携に対する広報ができればと思います。