石川県立中央病院

宮野 敬之さん 【お名前】 宮野 敬之さん
【施設名】 石川県立中央病院
【ご紹介】 学校卒業後、県外の病院のHCUで勤務。その後、県立中央病院に入職。ICUで勤務後、現在は救命センターに勤務。フライトナース。
【資格】日本DMAT隊員、第2級陸上特殊無線技士、災害派遣ナース、エマルゴシニアインストラクター、BLSインストラクター、ICLSインストラクター
※取材日…2019年9月
 

看護師を目指したきっかけ

私は看護関係ではない大学を卒業後に看護学校に入学しました。そのきっかけは20歳の時に祖父が病気で入院したことでした。私は遠方に居たため、面会に行った時には祖父は既に意識がない状態で、人工呼吸器が付けられていました。その姿はとても苦しそうで痛々しく、見るに堪えませんでした。そんな時に、祖父の入院中に訪室してくれたのが男性看護師でした。
何か特別な処置や会話をしてもらったわけではなかったのですが、頻回に訪室してくれたことがとても嬉しく感じ、「看てもらえている」といった安心感につながったのを覚えています。そして、「私も誰かを安心させる存在になりたい」という思いが強くなったのと、「裏打ちされた知識・技術を持ち、患者や家族の身体的・精神的な支えになれたら」と思い、看護師を目指しました。

そして、看護学校卒業後、両親と5年間だけという約束で、最初は長野県の病院に就職しました。看護学校に届く、病院紹介の冊子を見ている時に、ヘリポートとアルプスの山々が載っているページがあり、その時はスキーをしたいという気持ちもあったので、その病院を選びました。その後、石川県に戻ってきて、当病院に入職しました。

実際に看護師になってみて

実際に患者さんの命を預かる仕事に就いたという緊張感と、配属がHCUだったので、日々勉強と振り返りで大変でした。
また、その部署での男性看護師は初で、しかも2名配属だったので、先輩たちもどう扱っていいのか分からず困惑していたのを覚えています。しかし、教育体制は整っていたので、プログラムに沿った学習や教育担当スタッフへの課題提出、今日看た症例の自己学習を行っていました。

その頃はまだ男性看護師が少なく、患者さんやその家族からしても珍しかったため、色々と質問攻めにあったり、医師と間違われたり、女性の患者さんから男性拒否ということも大いにありました。そんな時に悲しくなることもありましたが、女性スタッフが直ぐに交代し、臨機応変にフォローしてくれたのでとても助かりましたし、患者さんも安心して看護を受けられたと思います。
病棟の特性でもあると思いますが、患者さんが回復し一般病棟にいく様子や、死の場面に直面することもあり、「こんなに人の生死に多く関わる仕事なんだな」と実感しました。そして改めて、急性期から終末期までの学習や、コミュニケーション技法などを就職してからも自分で学びました。

ドクターヘリについて

石川県に戻ってくる時にこの病院を選び、その時にICUへの配属を希望しました。そして、元々フライトナースになりたいという気持ちがあったので、ICUの師長にもそういう話をしていました。その後、救急に移る前にドクターヘリに関連する資格を取らせていただき、ドクターヘリ立ち上げの前に救急に異動しました。
当院のドクターヘリは2019年の9月24日で運航して丸一年になります。天候が悪いとヘリは飛べないのですが、ほぼ毎日飛んでいますし、多い時は1日5件くらい飛んでいます。消防や支援隊が出動して、安全確保してからヘリが降りるといったように、ドクターヘリの出動には様々な職種との連携が必須です。

ヘリの要請にはいろんな人が動くので、最初の頃は「この状況でヘリを呼んでいいのかな」と戸惑った消防や救急隊の方々もいらっしゃったようなのですが、航空会社の方々の地道な働きかけや、各消防署を回り、説明会を実施したりといった活動で、認知が高まったと思います。今では航空会社さんが契約している病院の中で、出動がダントツで多いようです。
能登などの遠方の患者さんですと、ヘリの方が早く医者と看護師を派遣し、医学的処置ができるので、救命率は断然上がります。現場で早く高度な治療が受けられるということがドクターヘリのメリットです。風向きでも若干変わりますが、当院からヘリで能登だと約25分、珠洲・舳倉島で約35~40分程度で到着します。

ヘリの中では狭く処置できないので、処置の準備をした医師と看護師が救急車に乗り込んで、処置をすることが多いです。救急隊が患者さんと接触する前にヘリの出動要請があると、患者さんの情報も少なく曖昧なので、ヘリ内であらかじめミーティングを行っています。救急隊の方がヘリを呼べばいいのか迷うことがあると思うので、各消防には「意識がない」「交通事故で車外に投げ出された」等のキーワードを渡しており、それに当てはまったらヘリを呼んでください、とお伝えしています。

ドクターヘリには、パイロット、整備士、医者、看護師の4名が乗って出動します。患者さんは重症な方だと意思決定ができないので、ご家族の方も一緒に乗っていただきます。
ヘリ内では患者さんの観察や、聞けるうちに必要な情報を聴取したり、必要な処置もあるため気が抜けません。患者さんがショック状態になって体温が下がっている時は危険なので、夏でもヘリのクーラーを切って暖房をつけることもあります。患者さんのことを中心に考え、運航クルーの方々も「暖房つけますか」と気遣ってくれ、みんなで協力して情報共有をしながら、ひとりの患者さんを助けています。

ドクターヘリ運航には、CSさん(コミュニケーションスペシャリスト)が院内で風速や天候などの情報収集も行ってくれています。風が強い日や日没以降など、ドクターヘリが出動できない場合は、行ける距離は限られるのですがドクターカーにスイッチします。ドクターヘリは運航の安全が第一ですが、実際にヘリに乗っている時、風が強い日には揺れが怖いなということはめっちゃあります(笑)。体調管理が一番重要ですね。ジェットコースターが降下する時のように「うっ」となることあります。
鳥が飛んできた時に急によけたりすることもありますし、鳥がヘリを敵だと認識し攻撃してくることもあるそうです。機長さん、整備士さんが見張りをしてくれていますが、私たちも手が空いている時は機外の見張りをすることもあります。最近はドローンも増えていて、見えた時にはぶつかるので、気を付けなければなりません。

山の方へもヘリで向かいます。一里野あたりでドッキングするというように、救急車で患者さんをドッキング場所で降ろしてもらい、私たちがヘリで飛んで待ち合わせして、患者さんをピックアップします。山頂ですと救助事案になるので、県警ヘリや防災ヘリが専門になってきますが、必要があれば私たちが現場まで行くこともあります。防災ヘリとランデブーポイントで待ち合わせて、ドクターヘリに乗せ換えるということもありました。ランデブーポイントは県内に何千か所があるのですが、学校のグラウンドだと砂が舞うので、消防の方に水を撒いてもらう等の前準備が必要になります。学校だと授業の妨げになるので、大体消防の方が注意して選定してくださいますし、CSさんが消防や病院側の情報をまとめて流してくれます。

病院見学の学生さんで、フライトナースになりたいという方がきたということを聞くことがあります。どんどんなっていってほしいです。現在、当院ではフライトナース5名でローテーションを組んで業務に従事しています。5名のうち、3名が男性です。

看護師としてのやりがい

救命センターでは、救急車で患者さんが運ばれてきたり、電話相談があったりと様々な仕事があり、ストレスが多い環境に置かれていますが、そんな中重篤な患者さんが改善していく様子や、一命を取り留めた場面に居た時は安堵しますし、ご家族が喜んでいる場面を見るとよかったなぁと思います。それに尽きます。また、ドクターヘリやドクターカーでのプレホスピタル(院外)活動では、少ない情報や状況から患者さんのアセスメントを行い、医師と連携して初期対応に当たっています。活動現場では危険もありますが、消防の方等、他職種スタッフと協力して救命にあたり、結果、患者さんの状態が回復に向かっていくことにやりがいを感じています。私たちは救急の間だけ患者さんと関わるので時間は短いですが、患者さんが元気になって顔を見せに来てくれた時や、名前を憶えてもらえた時はとても嬉しいです。
救急だと医者等と協力して対応することが多いので、看護だけではなく治療にも一緒に当たっているという気持ちになれます。私が提案したことを先生が承諾してくれることもあり、嬉しいなと思います。

看護師を目指す学生へのエール

看護師という仕事はとても大変でストレスが大きい仕事ですが、その反面やり甲斐のある仕事でもあります。なぜなら、人の生き死にに一番近くで接する重要な仕事だからです。また、自分の意見が治療や看護に直に反映されることがたくさんあるので、志を強くもっていれば、充実感や達成感を多く感じることが出来ると思います。
しかし、強い志を持っていても、仕事をしていく上で、自分の価値観や看護観から外れることも大いにあり、疑問や不安、虚無感に襲われる事があると思います。でも、それはそれでいいと思います。自分は他人と違うように、価値観も違います。看護は人との関わりを生業としているため、患者さんそれぞれに合わせた柔軟な対応が求められます。もちろん間違っていたり、修正が必要だったりする場合は、しっかり自分の意見や医学的根拠をスタッフや患者さんに伝える必要があります。また、決めるのは患者さんや家族ですが、幅広く物事を見て助言することもとても大切です。

看護師は勉強ももちろん大切ですが、看護師である以前に人間として成長していくことも重要と私は考えています。人は悩んで悩んで成長すると思います。時には自分以外の意見や助けも必要と思いますが、その結果として、自分の経験や学習が患者さんや家族の人生の一部として刻まれることもあるのではないかなと考えます。そして、患者さんや家族に一番近くにいるのは看護師だと思っているので、全力で接してもらえたらいいなと思います。
看護師になるにはまず国家試験にパスしないといけませんが、ゴールは合格ではなくそこからが出発になります。皆さん、自分の価値観ややりたい看護があって、看護師を目指したと思います。年を重ねる毎に考えが変わったり、時には迷ったり悩んだりすることもあると思いますが、初心に戻って踏みとどまって、自分の今のベストが何だろうと考え、そこを目指してやっていってもらえたらいいのかなと思います。

現役男性看護師へのエール

男性看護師は以前に比べて増えているので、当院では各部署で1名はいると思います。しかし、増えたとはいえ全体の1割以下しかいません。まだまだ女性社会であり、働きにくさを感じている方もいるかもしれませんが、男性看護師だからこそできることや頼られることがあります。
1つ目は、言わずもがな力仕事です。体位変換や医療機器運び、背が高いので高いところのものをとる時などに、頼りになるのかなと思います。
2つ目は、男性看護師だから受け入れてもらえる場合があることです。不穏、認知症患者さんなどに医師と間違われ、治療や安静を説明するだけで納得してもらえることがあります。検査を拒否する患者さんでも、男性看護師だとなぜか受け入れてくれる方もいます。また、患者さんとのトラブル時に行くだけで沈静化することもあります。
3つ目は、男性患者さんが言いにくいことを聞いてあげることができます。
4つ目は、職場のスタッフから「男性看護師がいると雰囲気が明るくなった」「変わった」と言われることがあります。自覚はないのですが、女性だけのところに男性が1人いるだけで変わることがあるようです。

しかし、それとは逆に男性看護師が患者さんに拒否されたり、女性へのケアは気を使って入らないようにしたりしている男性看護師もいるとは思います。しかし、中には男性看護師がいいと言ってくださる患者さんもいるので、多様化するニーズに合わせて看護を提供できたらいいのかなと思います。何事にも対応する柔軟性や先読み力を養っていくことが大切だと感じます。臨機応変に対応できるように、周囲を見て自分が出来ることを無理せず行っていってもらえればいいのかなと思います。

男性は女性のように結婚して出産ということがないので、男性看護師は「自分がどんな看護師になりたいか」や「目標に向かうにはどうしたらいいか」という長期的なビジョンを持って、仕事できるのではないでしょうか。長い看護師人生の中で看護観は変わることもあるかもしれませんが、自分が行いたい看護や仕事内容に取り組めるよう、積極的に関わっていって欲しいと思います。周囲のスタッフや家族の協力があっての自分でもあるので、周囲に感謝の気持ちを忘れず、自分の進むべき道を突き進んで欲しいです。

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