認知症の症状には、必ず現れる中核症状と、認知症に伴う周辺症状である「BPSD」と呼ばれる行動症状・心理症状の2種類があります。
脳の神経細胞の破壊によって起こる直接的な症状が、中核症状です。記憶障害や見当識障害、失認・失行、実行機能障害などが起こり、周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなります。
周辺症状(BPSD)は、環境変化など障害とはかかわりなく起こる症状で、さまざまな要因によって現れると考えられています。
認知症の代表的な症状が記憶障害です。健常者は体験の一部のみを忘れますが、認知症のもの忘れは、体験全体を忘れているので、思い出すことが困難になるのが特徴です。
記憶は以下のように分類されます。時間軸での記憶では、認知症の場合短期記憶から障害されます。それに対し、体で覚える手続き記憶については、認知症でも比較的長期にわたって保持されます。
■記憶の時間的側面からの分類
名称 | 記憶保持期間 |
---|---|
即時記憶 | 数秒~1分くらい |
近時記憶 | 数分~数時間ときに数日 |
遠隔記憶 | 数週間~数十年 |
■記憶内容の分類
種類 | 内容 | |
---|---|---|
陳述記憶 | エピソード記憶 | いつどこで何を体験したかと言う個人的な体験に基づく記憶 |
意味記憶 | 単語、数字、概念、事実など社会全般に通用する知識 | |
非陳述記憶 | 手続き記憶 | 自転車の乗り方など体で覚える記憶 |
プライミング | 「こんちには」を「こんにちは」と読んでしまうような、先入観が影響する記憶 |
見当識障害は、記憶障害と並んで早くから現われる障害で、環境の中で、自己を位置づけることができない状態になることをいいます。「時」「場所」「人」の3種類に分類され、この順番に障害されます。
まず、時間や季節感の感覚が薄れ、時間に合わせて行動したり長時間待つことができなくなります。進行すると、場所の見当識障害が起こり、迷子になったり徒歩で行けない遠い場所にも歩いて行こうとしたりします。さらに進行すると、自分の年齢や周囲の人との関係性がわからなくなります。
※見当識(けんとうしき)とは、現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど基本的な状況を把握すること。
失認とは、感覚機能が損なわれていないにもかかわらず、対象を認識あるいは同定できない状態のことをいいます。失認には以下の種類があります。
種類 | 内容 |
---|---|
視空間失認 | 空間における物の位置や、物と物との位置関係が理解できなくなる。 |
視覚失認 | 目の前のものが認識できない。 |
相貌失認 | 人の顔の区別がつかない。 |
半側空間無視 | 病巣と反対側の視空間を無視すること。 |
失語とは、耳や目や構音器官には特別の障害がないのに、大脳半球(言語野)の損傷のために、言葉を理解したり表現したりできない状態のことをいいます。言語野には、前頭葉にあるブローカ野と側頭葉にあるウェルニッケ野があります。
名称 | 障害部分 | 特徴 |
---|---|---|
運動性失語 | 前頭葉(ブローカー領域) | 会話はたどたどしく、発語量は乏しいが、言葉の聴覚的理解は保たれている。 |
感覚性失語 | 側頭葉(ウェルニッケ領域) | 会話は滑らかだが、内容に乏しく、言葉の聴覚的理解が著しく障害されている。 |
失行とは、運動機能が損なわれないにもかかわらず、目的の行動(意志的な動作を行うこと)がとれない状態のことをいいます。日常生活に欠かせない基本動作ができなくなり、進行すると食事をとることさえできなくなることもあります。
種類 | 特徴 |
---|---|
構成失行 | 立体図形や絵が模写できない。 |
観念失行 | 使い慣れた道具を使うことができない。歯磨きなど。 |
着衣失行 | 衣服の着脱がうまくできない。 |
観念運動失行 | 単純な動作を命じられてもできない。 |
実行機能障害とは、目的に合わせて計画を立てたり、手順・段取りをつけたりすることができない状態のことをいいます。
たとえば、カレーライスを作る場合では、以下の図のようなポイントでうまく作ることができなくなります。
認知症者に頻繁にみられる知覚・思考内容・気分または行動の障害による症状。(1999年:国際老年精神医学会、コンセンサス会議より)
中核症状により生活上の困難にうまく適応できない場合に、本人の性格や環境、身体状況が加わって起こります。
●行動症状:認知症者の観察結果によって明らかにされる。
(徘徊・帰宅願望・暴言・暴力・介護拒否・昼夜逆転・異食・失禁・弄便・不潔行為など)
●心理症状:認知症者や親族との面談によって明らかにされる。
(不安感・強迫症状・抑うつ・幻覚・妄想・睡眠障害など)