金沢大学附属病院

小藤 幹恵さん 【お名前】 小藤 幹恵さん
【病院名】 金沢大学附属病院
【役職名】 副病院長 兼 看護部長 兼 臨床教授
【これまでのご経験】学校卒業→金沢大学附属病院
看護部長歴13年目。
※取材日…2017年6月(看護部長さんは取材当時の方です。)
 

看護部長のお仕事について

主な仕事としては、患者さんの状況把握とナースの看護報告の確認です。ナースから上手くいっていること、困っていることを聞き、副看護部長や師長たちと一緒に少しでも良くしていくことを考えています。
朝は、前日夜間からの看護状況の報告を受けるところから始まります。それから必要があれば一日の行動計画を関係者と打ち合わせし、病院長のところへ報告に行きます。その後副部長と一緒に、昨日から今日にかけての出来事を確認します。また、各種書類に目を通すのですが、その間にもいろんなスタッフが部屋にやってくるので、その対応もしています。その他、課題についての打ち合わせをしたり、変わったことがあって各部署を見に行ったりしていると、大体午前が終わります。

午後も病院内外の方が部屋にこられるので、面会予約に基づいてお話をしています。私の部屋は一日中開いており、職員には夜勤の前や帰り、休憩時間などの職員の都合がいい時に寄ってもらいます。現場で働く人の時間を優先しなければいけないと思っているので、可能な限り職員の時間を優先します。直接顔を見て話す方が、話がよくわかると思います。職員が研修の報告にくる時には、看護部のブログ用に写真もとります。また、「結婚します」「赤ちゃんができました」などの報告も多いですね。看護師は800人以上いるので、一日に三人から「赤ちゃんが生まれました」という連絡をもらったこともあります。

また、院内での会議に出席したり、必要な資料の作成をしたりします。
夕方になると、病院ではいろいろな研修会を行っており、その研修に参加することや、時には看護部で研修会を開くこともあります。研修会の内容はその時によってそれぞれですが、実際に行った看護の報告をする時があります。「大変な状況の患者さんにこういう看護をしたら、とっても喜ばれて、早く良くなった」等の看護の物語を発表して、皆で共有します。そこには、自分たちがやっていく看護へのヒントがあります。

仕事のやりがいについて

やりがいは、やはり患者さんが元気になられることですね。難しい病気の患者さんのお世話をしていて、看護師が皆で知恵を絞って看護をした結果、患者さんが元気に嬉しそうに退院されたという話を聞くと、本当に嬉しいです。
また、この病院にはナースが新卒で沢山入ってきますが、時間が経つうちに仕事をしていく人の顔になっていくんです。ナースが徐々にいろんなことを身につけていく様子を見ていると嬉しいです。「一人ではできないけれども皆で行った看護を、自分なりに振り返り、まとめて発表できるようになった時」や「習った知識を活かし、筋道の通った看護の手順を踏んで、看護研究を発表する時」等にナースの成長を感じます。
身の回りにある材料を使って、看護師がアイデアを出し、患者さんに役立つ看護用具をつくる「看護用具工夫作品展」というものを一年に一回開いています。看護師が作品を作って、患者さんの役に立ったと嬉しそうに報告にくるのですが、その表情がいいですね。全国の看護師さんが集まる中で、作品の発表をして帰ってくると、こんなに皆、一生懸命やってるんだなあと感じますし、刺激も受けますね。

看護師のキャリアプランについて

まずは実際の看護をたくさんすることが大事だと思います。三年、五年とまとまった年数できちんと働けることが、少なくとも大事です。若い人が多い職場であり、結婚・出産・育児などのライフイベントが多い中で、自分のナースとしての職業上の歩みをどうするかを考えることは重要です。ナースの仕事内容は濃密なので、ナースの仕事を続けていく事を若いうちに身につけてしまわないと、というところがあります。五年程続けていれば、その後途中で波風があっても進んでいけるのではないかなと。

一、二年で辞めるともったいないです。看護はチームで動かないとできない仕事なので、チームの中でメンバーシップ、リーダーシップがとれるように看護経験を積んでいかないと、通用する看護は身につかないんじゃないかなと思います。何十年やっていても、看護にこれでいいというものはないです。また、現場は一瞬一瞬の連続でその時に最善を尽せるかが重要なので、今できることを先送りにしないで、若い時にたくさん学んでほしいです。
若手職員を集めてセミナーをすることがあるのですが、その時に「20代と30代は違うのよ」と伝えています。見た目はちっとも変わらないけれど、20代で身につけるべきことを30代でしようと思っても、相当の努力が必要になります。選択肢が多くてどれも叶う時代というのは、今の人たちにとっていいことでもあり、大変なところでもあります。周りの世話になりながら仕事をするよりも、自分が他のナースを世話する側に早くまわれるようになったほうがいいよ、と伝えています。ただ、そうやって頑張りすぎて、自分の大切な家族をないがしろにするのはよくないので、バランスを考えることも大切です。

ナースは、本人の希望や師長の推薦で、外部へ認定看護師などの勉強をしに行くことがあります。第一に意欲があって、なお且つ、この病院の目的にあった働き方が期待できる人を中心に送り出しています。外部へ勉強に行く時には長期で仕事を休まなければいけないので、病院で全て保障をしています。
そして勉強から帰ってきたら、学んできたことが病棟の患者さんにどう役立ったのかを発表してもらいます。そういった発表もナースは苦労してまとめていると思いますが、その苦労の経験も大事だと考えます。自分が一生懸命やってきたことで患者さんがどう良くなったのかを振り返り、もっと良くするにはどうしたらいいのかを整理して考えることは、機会を持たないとできないことなので重要です。今年は「心に残った看護をノートに書こう」という運動をしています。

学生へのアドバイス

看護の勉強は、分量がかなり多いので大変だと思いますが、まずは国家試験に受かるための勉強を一生懸命頑張ることですね。そして、看護師は脳みそも含めて、この体が大事なんです。自分の体が道具なので、この道具の性能を良くしないといけないんです。そのためにはちゃんと夜眠って、朝人に会った時に自然に笑顔が出るような体調を作っておかないといけません。お酒を飲みすぎて夜更かしし、睡眠不足を若さでカバーしようとしていても、無理がきて「疲れているのに人の世話までできないわ」となるんです。そこで、「自分が患者さんにとって、とても大事な人である」と考え、自分の知識も気持ちも体調も、どんな風にいい状態にしておくかが大切です。仕事中の大事な場面でお腹が痛くなって、トイレに駆け込んでいるわけにはいかないんです。笑顔ひとつでも、普段から練習していないとできません。そういうことを自然にできるようにするには、トレーニングがいるんです。そういうものを体に身につけていかなくてはいけないのです。

また、うちの病院では「たまご・ひよこサロン」という部屋があり、看護師を目指す学生が若手ナースに相談や質問をすることができます。「学生のこの時期には先輩はどんなことを考えていた?」などの具体的な質問がある時には、学生はより近い立場の先輩に質問したいだろうなと思い、その部屋を作りました。病院だと一年でも違うと「先輩だ」という感じになりますが、全然違う空間だと、歳がいくつか違っても気軽に相談できるんじゃないかなと思います。

好きな言葉・座右の銘

好きなのは「日常」や「普通」でしょうか。看護は日常生活の援助と言いますが、「日常」「普通であること」はいかに難しいか、と思うんです。普段は健康が当たり前で、自分がちょっと風邪を引いて辛いなと思うことがありますが、それを思うと患者さんはどれだけ大変なのだろうと思います。普通ということにあまり気づかないのですが、病気でも予定通り治ったとか、出張から予定通り帰ってきたとか、ごく普通だと思うことって結構いいのかなと感じます。

私の机には、詩が書いてあるペーパーウエイトを置いています。それは中国の有名な詩人である李白の詩で、それは滝の様子を壮大な宇宙に例えた内容です。普段、何気ない光景を眺めていても、それが特別に見えることがあるものです。普通の景色を見て、こんな風に詠むのもすごいなと思います。

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