災害看護専門看護師・災害支援ナース

石川県立中央病院 登谷 美知子さん 【お名前】 登谷 美知子さん
【病院名】 石川県立中央病院
【所属】 ECU(救急集中治療室)
【資格】 災害看護専門看護師、災害支援ナース、DMAT、防災士
【これまでのご経験】
消化器外科・内科、ICU・集中治療室、ERなど。
看護師歴33年目。珠洲市出身。※取材年月…2024年6月。

看護師になってからについて

看護師歴は消化器外科病棟から始まりました。そこでストーマケアを個人的にも勉強していたのですが、糖尿病、腎臓病、血液内科などが主科の内科へ異動になりました。当院がHIVブロック拠点病院であることもあり、上司から「HIV看護の資格を取らないか?」という声を掛けていただき、2週間サンフランシスコで勉強しました。
戻ってきてから、感染症事業に従事しつつ、日々内科の患者さんの看護をしていました。 その中で化学療法をされている方のモニタリングをする場面があったのですが、自分が苦手としている分野に、「心電図が読めない」ということがありました。
波形は看護学校でも習うのですが、臨床で心電図を読むという事が苦手で知識が薄かったので、心電図を勉強したいと思い、集中治療室勤務を希望しました。

初めて災害現場に入って

集中ケアを希望したことを契機に、集中治療室に異動し、いろいろなことを学んでいた2007年3月に輪島で地震が発生しました。
被災地に派遣される予定だった看護師が行けなくなったため、代わりに行ってほしいと声がかかりました。私は珠洲市の出身なので能登の現地の様子が気になっていましたので、引き受けることにしました。当時は、災害の知識もなく何も分からないままに日帰りで災害現場に入りました。それが、私が災害看護に携わった最初の経験でした。

しばらくしてから、上司から「一度災害の現場に行ってみたから、DMATの研修を受けてみない?」と声がかかりました。
その当時、当院は基幹災害拠点病院に指定されており、既に1チームが結成されていました。2007年6月にDMAT養成講習を4日間受講しDMAT隊員登録後、翌7月に中越地震が発生しました。私は救護班としてメンバーに加わりと1週間ほど派遣されました。
そこでの活動は、避難所を回り、避難所運営の方や避難所利用者から話を聞き健康管理に関するニーズ調査を行うというものでした。

その後、災害支援ナースの育成事業に関わってほしいと、石川県看護協会からお声がかかりました。事業の企画や研修のお手伝いをしながら、当院のDMATの訓練に参加したり、災害の勉強をしたりしていました。2011年に東日本大震災、2016年に熊本地震で現地に派遣され、少しずつ経験を積みました。

大学院への進学について

災害支援ナースの育成に関わったり、看護学校での講師を務めたりしながら、その10年を振り返ると、自分は災害の急性期の経験しかないなと気付き、災害の急性期を乗り越えた後の被災者の方の生活や暮らしはどうなっているのだろうという疑問が湧きました。
災害発生から、復興まで道のりが続く中で、もっと看護ができることがあるのではないかと考えました。
急性期だけではなく、復興までを見据えて、きちんと災害について勉強したいと思うようになりました。そこで災害看護専門看護師の資格を取ろうと思い、福井大学大学院医学系研究科修士課程(看護学専攻)に進学し、災害看護学を修学しました。
大学院では、急性期から復興、そして防災まで含めた広い視野で災害看護を学びました。大学院進学にあたり、座学の他に被災地に行く実習や研究があるので、休職して2年学びました。

大学院在学中の2018年に西日本豪雨災害がありました。その際、愛媛県の病院1階が浸水したのですが、同じ院生の中にその病院の町に親戚がいる人がいました。そのつてで被災した病院の支援をしながら急性期の災害支援を学んだりしました。

災害看護師の対応範囲とは

災害看護の対象は被災に見舞われたすべての人々になります。
急性期から復興期、防災(備え)に至り、被災者だけではなく支援に関わる関係機関との調整など、被災者に必要な支援の提供・介入を行います。

基本的にすべての災害において、被災された方々への対応ができるようにと考えています。但し、テロや原子力災害などの超急性期の現場には、DMATであっても入ることは出来ません。
例えば原子力災害の場合、原子力に精通した専門家が安全を確認し、安全エリアであれば医療班を投入することができます。原子力災害で避難してきた方々、その避難場所での看護介入・ケアはできます。

災害訓練について

当院は基幹災害拠点病院ということもあり年に1回大規模な傷病者受け入れ訓練を行います。
コロナ禍の際は訓練の中止を検討しましたが、災害はいつ起こるか分かりませんので訓練は、規模を縮小して行いました。
訓練のシナリオでは、傷病者の中にコロナに罹患している人がいると仮定して行いました。水害を想定した訓練の時は、1階が浸水し、電気・エレベーターが止まったと仮定して、2階の栄養部から上の階まで食事を運ぶリレーをしました。
また毎年、病院の災害委員会と施設係と防災センターの職員と協働で企画し、自衛消防組織消防訓練を実施しています。
病院の災害委員会の下部組織である看護部災害対策委員会では部署単位の訓練を実施します。緊急連絡網の訓練や各部署での災害のシナリオを作ってそれぞれ年に1回は避難訓練をしています。

各部署の訓練は実働で行い、病棟の中での動きを確認します。
訓練の中では病棟内の防災設備の確認もしています。火災報知器の位置、消火器の位置、排煙ダンパーがどこにあり、どういう機能をしているのか、避難口の鍵は誰が持っているのか、防火扉はどうやったら動くのか等、日々病院で仕事をしていても案外身につかないものです。安全に避難できるために、防災設備について毎年確認することが必要と考えます。

被災者の心を守るために重要なこと

月日がたちメディアが震災についてあまり報道しなくなってくると、被災者の皆さんが、「自分たちが世の中の人に忘れられるのではないか」「見放されたのではないか」と思うようになるそうです。
まず、「被災地のことを気にかけている」「支援を続けたいと思っている」という気持ちを伝え、そして被災者の方に「ちゃんと支援を受けられている」という気持ちを持っていただきたいと思います。
どこの誰に相談すればよいかを明確にすることが安心にも繋がるので、その安心材料を被災地の皆さんに提供することは、行政を含め大事なことなのではないかと思います。

災害看護は看護の基本

私は災害看護を学んできましたが、災害看護は看護の基本だと思います。
災害時だから出来る特別な看護があるというよりも、災害時こそ普段やっている看護や対応が活きてくるのです。
普段勤務している時の患者さんへの対応、多職種とのコミュニケーションなど、そういったことが災害現場で全て活かされます。
また、「あれってどうだったっけ?」「これはどこに連絡したらいいのかな?」というように、平常時の疑問をうやむやにしないことが、災害時に慌てずに行動できることに繋がります。日常の疑問は普段から解決していくことが大事です。

患者さんの前での話し方、立ち姿などにも人となりが出てしまいます。
重心を左右どちらかに掛けて立つ、腰に手を当てて立つ、腕組みしているなど、人には癖がありますが、何気なくやっているしぐさが、被災地では威圧的に見えることがあります。そういったちょっとしたことに気を配ることが大事です。

患者さんを看るということは、「人を看る」ということであると思います。
患者さんへの医療的な目線・言動は、病院の中では当然のように思えますが、患者さんの前に「人である」ということを意識しないといけません。忙しくても、業務的に接したりしないことを心がけています。

災害時に看護師に求められるスキル・必要なこと

聴診器もモニターもない、物品が揃っていないところで被災者を看るので、避難所では見る・触れる・聞く・においをかぐというように「五感」を研ぎ澄ませることが大事です。
若い同僚看護師に「酸素飽和度を測定するサチュレーションモニターがなかったらどうやって看る?」と質問した時に、モニターがあるのが当たり前の世代の看護師たちは「モニターがないので分かりません。」と言います。
そうではなくて、「爪・唇・顔の色は?」「冷や汗はかいてない?」と観察することで、酸素が足りているかアセスメントできます。その力を鍛える必要があります。病院にいてもモニターだけに頼らずに、患者さんを看ることが大事です。
研修などの機会を通して、そういった基本的な看護を身に着けることが災害現場で看護の力が発揮できることにつながるとお話しています。

遅刻をしない、期限を守るといったことも災害現場では大切です。今やらなければならないことを確実にやることで、支援が欲しい被災地に行って役立つことが出来ると考えます。普段からの姿勢・行動はとても大事だと思います。
ベッドサイドでは、点滴の管やコンセントが絡まったままになっていると、直ぐ避難できないので、そういった環境整備も、普段から意識してやっていくことが大事だと、同僚には口をすっぱくして伝えています。だからうるさがられることがあります。(笑)。
病院内でも、環境チェックとして災害委員がラウンドしています。避難口に車椅子を置いていないか、パソコンラックのロックがかかっているか、廊下の手すりの清掃がされているか等、年2回は確認しています。
「被災者がどうやってトイレに行くんだろう?」「導線に物が置いてないか?」というように、避難所でいざ環境整備をするときに、普段からそのような視点を持っていれば、何を整備すればよいのか、おのずと行動ができるようになり避難所でも対応できます。

被災地では特別なことをしている訳ではないのです。
平時の病院等での恵まれている環境での看護から、1つ2つ物が足りないとしても、「あれがないから代替でこういうものは使えないか?」という発想で、災害時も対応していけば、支援が繋がっていくのではないかと思います。


臨機応変に考えられる柔軟な思考で学んでいけば、被災地に行っても役立つのではないかと思います。
最近は考える前にスマホで調べて答えるという人が多いですが、被災地ではスマホが使えないという場合もあります。
このように五感を使い、創意工夫しながら看護活動を実践していくと、看護の基本に触れることができたような、達成感や喜びがあります。災害看護は特別なことではないので、ぜひ皆さんに興味を持っていただけたらと思います。

看護師であれば、誰でも出来ることは必ずあります。「何も分からないけど何か出来ると思って来ました。」という人でも、実際に被災地で「こういうことが出来るんだ。」という体験ができれば次に繋がります。
まずは「何か出来ないか」という思いだけでもいいので、支援に、被災地に来ていただけたらと思います。

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