令和6年能登半島地震での看護活動(2)

石川県立中央病院 登谷 美知子さん 【お名前】 登谷 美知子さん
【病院名】 石川県立中央病院
【所属】 ECU(救急集中治療室)
【資格】 災害看護専門看護師、災害支援ナース、DMAT、防災士
【これまでのご経験】
消化器外科・内科、ICU・集中治療室、ERなど。
看護師歴33年目。珠洲市出身。※取材年月…2024年6月。  

2024年6月現在について

今回は半島での震災で、地理的にもアクセスが悪いので、その他の外部支援のナースも含め被災地に入りたいけど入れないという問題がありました。
看護協会からの災害支援ナース派遣期間は1か月と決められています。災害支援ナースは勤務をしているナースが多く、自分たちの病院等での勤務もあるので、いつまでも活動することができません。
支援が長期になると、民間団体などに活動を委託していく流れになっていくのかなと思います。
私は、日本災害看護学会の令和6年能登半島地震災害看護プロジェクトのメンバーに加わりました。職場の理解もあり、6月現在は交代で週3日間珠洲の支援に入り、仮設住宅や在宅にいる被災者への支援、自立に向けたコミュニティ再形成の支援を引き続き行っています。
被災者心理にはその時々で波があり、見た目は穏やかで元気そうに見えても、心の奥底は計り知れません。喪失感が急に襲うこともあります。大丈夫という人には無理に近づきませんが、自分たちの活動が出来る限りは見守って声を掛け続けることが大事だと思います。

奥能登では元々コミュニティの繋がりは強い特徴があります。既にコミュニティを再形成し、活動や催しを計画している地区もあれば、津波などの被害が大きかった地区や住民が少ない地区になると、残っている人たちだけでどこまでコミュニティが再形成できるか、という難しさがあります。
仮設住宅でも、元々の地区ごとで住民が集まっているところもあれば、元々交流がない住民が入り混じっているところもあります。そうなると仮設住宅でのコミュニティをどうしていくか、考える必要があります。
仮設住宅はその方のご自宅になるので、どういう状況でどのような生活をしているのか、避難所と違って様子が見えにくくなります。そこで、行政の方と相談、調整を行い、イベント企画・開催など行い仮設住宅に住む人をお呼びし、何とか住民の方を孤立させないように支援できないかと考えています。

しかし、いくらイベントを企画しても、住民が参加しなければ様子は分からないので、仮設住宅を一軒一軒回って、「元気ですか?お困りごとはないですか?」と声を掛けることを大事にしています。
また、花を植えてその水やり係を順番にしてもらうというように、高齢者の方々の社会的なつながりを作ることで、それが希望や生きがいとなったり、仮設住宅の近くに集会場がないのなら、所々にベンチを設置するなど住民が自然に集まれる憩いの場を作っていくことも大事だと思います。
仮設住宅は建ちつつありますが、建物だけではなく、そこでの「生活・暮らし」を支えることで心身の健康に繋がっていくのではないかと思います。やるべきことはまだいっぱいあります。

被災地の方とやり取りをする中で

出身地だから分かるのですが、奥能登の方々はつらいと思っていることを簡単には口には出さず自分たちで何とかしようと考える傾向があるように思います。支援に入る時は、最初のアプローチに気を付けています。
断水が解消されたと報道された地区でも、町までは水が来ているのですが、そこから自宅の敷地内への工事は自己負担で行う必要があり、まだ水道が使えないという家もあります。
地元の方に話を聞くと、「場所柄普段から何でも遅いから、どうせここは最後だろう。」と諦めている部分があるのですが、「それなら生活用水は山から水を引っ張ってこよう。」というような力強さもあります。
震災後の早い時期から「昔からあそこに水が出ていた。」と皆さん知恵を働かせて、生きるために生活用水を確保しようとされていました。
「水がない。」となると、文句を言いたくなったり、悲しくなったりしますが、自ら動きながら気持ちのバランスを取っているのかなと思ったりもします。
山から水を取ってくることは、安全の面から推奨はできないにしても、生きる力はすごいなと一緒に喜び、悲しい時には一緒に悲しむという、共感する姿勢を持ち続けるようにしています。

そうやって被災者の方と共感する中で、「そういえばあなた看護師さんやったね。実は相談で…」というところに繋がることもあります。
「看護師なんですけど、困ったこと、体で気になることはないですか?」と急に問われても、本音を言ってくれません。「看護師さんいつもありがとう、ご苦労様。」の返答で終わってしまいます。
被災者の方と関わっていく中で、「どこに勤めとるん?」と興味を持ってくれて初めて、「実は私は看護師で…」という話から始まって、「あそこに看護師さんおるから聞いておいで。」と他の方が紹介してくれたり、「あの人こんなんで困っとったわ。」と情報提供してくれたり、そうやって地域に溶け込んでいくことが、速く確かな情報収集に繋がります。

被災者の方への介入について

健康相談もそうですが、テレビが付かない等の日常生活の困りごとも話してくれるようになります。
そのような時は「テレビは私の管轄外だから。」と切り捨てるのではなく、「そしたら家に見に行ってもいい?」と聞くことでご自宅におじゃまする機会になり、きちんとゴミが捨てられているか、水分を取っているか等の生活様式を知るきっかけとなります。
ある時、「仮設住宅で電気の使い方が分からない。」と言われた時に見に行かせてもらったら、インターホンの電源が入っていないと分かったことがありました。
そうやって仮設住宅の中の生活の様子をみることで、健康状態のアセスメントができたり、今後の生活についての思いなどを知ることができます。

ゴミが溜まっている人がいたとしても、ゴミを捨てる場所を知らないだけだったり、普段から溜める癖がある人もいます。家に入らせてもらったら支援に結び付けるチャンスです。
「これ、もしいらんもんあったら、私捨ててきてあげるわ。」「一緒にいろてもいい?(触ってもいい?の意)」「ごめん、正直に言うとこれ匂うみたいやわ。」「こうしたら取り出しやすいし一緒に整理しよう。」と介入しています。
珠洲弁も使うので、「あんた珠洲の人かい?」と親しみやすさを感じてもらえて、介入しやすくなります。

これまでは被災者の方に、「水分を摂りましょう。」と呼び掛けていたのですが、実際断水でトイレが使いにくくなると、私自身も無意識に水分を摂っていなかったのです。被災者の方は、摂らないんじゃなくて摂れないんじゃないかなと、自分も体験することで理解できました。今回は地元で起こった震災でしたが、「今まで被災者に寄り添っていたつもりでいたのかもしれない」と振り返って反省する場面がたくさんありました。

このページのトップへ