ナーシングケアについて、くわしく解説します。
(1)環境整備|(2)リラクセーション|(3)呼吸法の指導|(4)排痰の援助|(5)生活の援助|(6)不安の軽減|(7)ポジショニング(リラックスポジショニング)|(8)呼吸介助法|緩和ケアにおける呼吸困難とは
環境を整えます。
患者さんをリラックスさせます。
簡単にできる方法としては、両肩を同時にキュッと思い切り引き上げ、すぐに肩の力を抜いてストント落とすことで、胸鎖乳突筋や斜角筋をほぐすことにつながります。また、胸鎖乳突筋や胸郭上部をマッサージすることによって、筋の緊張がほぐされます。
呼吸困難があるときには、患者は吸気に集中してしまい、呼吸困難を増大させ、場合によってはパニック状態に陥ることがあります。そこで、自ら努力呼吸を軽減させ、落ち着いてゆったりとした呼吸に調整することが重要になってきます。
呼吸困難の時に、集中したり何かを覚えたりすることは難しいことです。呼吸困難が当然予測される、肺がんや肺転移をもつ患者さんなどへは、その症状がひどくなる前に呼吸のやり方を導入し、練習を重ねることで、「いざという時への対応」に結びつけることができます。
それは、単に呼吸法が上手にできるということばかりでなく、「自分自身の力でいつでもリラックスした状態に持っていけることができる」という、自分の心や体へのコントロール感の回復にもつながります。
私たちは、安静時には呼吸をしていることを意識していませんが、無意識のうちに横隔膜が収縮下降し、下部胸郭から腹壁がふくらむ、腹式呼吸を行っています。
しかし、呼吸困難時には、走ったあとに息を切らしたときのように、頚部や肩などの呼吸補助筋を収縮させ、上部胸郭の動きによる吸気運動(胸式呼吸)となります。呼吸が苦しいため早く息を吸い込もうとしてさらに呼吸が速く浅くなります。
胸式呼吸は、換気面は効率は悪く、呼吸困難を悪化させる一因となりますので、意識して腹式呼吸を行なうように指導します。
まずは、胸郭上部や頚部をリラックスさせる体位をとります。そして、上腹部に手をおいて、患者さんが息を吸い込むときは、腹部が膨らみ、息を吐き出す時は腹部が縮むことを感じてもらいます。この方法で呼吸の換気量が増加、呼吸数が減少し、換気効率が改善します、また、リラクセーションとしても有効です。
口すぼめ呼吸は、口をすぼめて、細く長い呼気を行います。口の前に手をかざし、吐き出した空気を確認します。
呼気により副交感神経が亢進し、吸気により交感神経が亢進するために、呼気に意識を向けることによって、リラックス反応を引き出すことができます。
また、口をすぼめることによって、気道の予備圧力を生じ、肺胞での血中酸素量が増加し、必要な換気が、少ないエネルギーで確保することができます。
痰喀出可能な場合は、排痰の援助を行います。
痰喀出困難な場合は、分泌抑制を行います。
生活の援助には、以下のようなものがあります。
生活の援助を行うときには、以下のことに注意して、患者さんが快適な日常生活を維持できるようにしましょう。
患者さんの気持ちに寄り添い、不安を軽減します。
リラックスポジショニングは、疼痛、全身倦怠感、呼吸困難感い対し、枕やクッションなどを利用して、安楽に休めるよう工夫した体位のことを言います。患者さんの筋肉の緊張を緩和させ、横隔膜を下げて呼吸面積を広げます。そして、患者さんが好む、安楽な姿勢をとることが大切です。
側臥位は、患側を下にすることにより健側の呼吸面積が広がり、患側を上にすることで患側の血流を改善します。
また、患者さんが肺や心臓に問題がある場合、無意識のうちに、あるいは経験上から一番楽な姿勢をとることがあります。これは、呼吸を楽にするために無意識にその体位を取ると考えられています。
つまり、側臥位をとることにより、肺の呼吸面積を広げたり、肺の血流を送り込みやすい体位ということがいえます。患者さんが一側の側臥位を好む場合は、上側の肺で呼吸が優位に行われているので下側の肺に何らかの問題があるのかもしれないし、また、その逆で、健側肺に血流を多くするために健側を下にした側臥位になっている場合もあります。
したがって、同一体位を身体が欲する場合は、肺の状態に左右差や上下差があることもあるため、注意深く観察することが大切になってきます。
(※下側の肺は体圧で潰され、上肺は拡張しやすい。しかし、血流は下側の肺野により多く流れる。横隔膜についても、下側肺は内臓により押し上げられる。)
側臥位のポジショニングには、このような方法もあります。
坐位は、横隔膜が下降しやすくなるので呼吸がしやすくなります。ギャッジベッドや椅子に、オーバーテーブルやクッションなどを利用して、安楽な体位を作るようにします。ポジショニングは、呼吸困難時に過度に緊張しやすい呼吸補助筋群のリラクセーションに有効です。
このときに、胸鎖乳突筋や胸郭上部のマッサージやストレッチを併用すると、なお効果的です。
たとえば、起坐位を好むのであれば、呼吸不全や心不全の徴候と考えます。(その結果として、腹式呼吸が困難で呼吸補助筋を使った上胸呼吸をしている場合が多い。)
このようなポジショニングもあります。
机の上に両方の腕をついて寄りかかり、前傾位になります。さらに、枕に頭をのせるようにします。
呼吸介助法とは、呼吸運動を補助することで、呼吸仕事量の軽減をはかる方法です。
呼気相に一致して胸郭を生理的な運動方向に合わせて徒手的にゆっくりと圧迫し、吸気時に圧迫を開放することを繰り返す方法です。介助法の種類には、以下のようなものがあります。
背臥位での呼吸介助は、胸に手をあてて、呼吸のときに、どの程度胸部が動くかを感じとり、呼気方向の動きを助けるようにします。
呼気とともに胸郭上部を45度に押し下げるように呼気の動きを助けます。
側臥位では、片手で背中を支え、もう一方の手を前胸部の中央やや上部にあてて、呼気とともに胸郭上部を45度の方向に押し下げるようにします。
座位では、自分の呼吸に合わせるように、呼気を意識させるように、呼気時に手で圧迫を加えます。
ホスピス・緩和ケアにおいて、緩和困難な症状のひとつである呼吸困難感。
がん患者の症状の中でも、日常生活行動を著しく障害する症状であり、患者さんのQOLに与える影響がきわめて大きいとされています。呼吸困難感によって、日常生活上の食事・排泄・清潔・移動・などの活動を他者に助けてもらわなければならなくなり、自分の意志で自由に生活ができなくなることで、患者さんは自己コントロール感を失ってしまいます。
また、呼吸困難感が続くと、どうすれば楽になるのかの見通しがつかず、身体的苦痛のみならず死に直結する脅威や恐怖を感じます。そこで、患者さんが行う自己コントロール法や、看護師が行うケアが非常に重要になってきます。
日常生活なかで、息苦しさを和らげるケアをご自身で行います。